大阪地方裁判所 平成6年(ワ)11794号 判決 1995年11月29日
主文
一 甲野太郎と被告との間で別紙物件目録一、二記載の土地建物についてした平成五年二月一九日付け売買予約及び同年四月六日付け売買を取り消す。
二 被告は、別紙物件目録一、二記載の土地建物につき大阪法務局東住吉出張所平成五年二月一九日受付第二六〇七号所有権移転請求権仮登記及び同出張所同年四月一二日受付第一二二〇号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
理由
一 本案前の主張について
被告は、原告の太郎に対する財産分与請求権ないし慰謝料請求権は未確定であるから、これを被保全債権として詐害行為取消権を行使することはできず、本件訴えは不適法であると主張する。
しかし、債権者代位訴訟とは異なり、詐害行為取消権の要件である債権者の債権存在は、詐害行為取消権を行使するための実体要件であって、これを欠く場合でも請求が理由がないことになるにとどまり、訴えそのものが不適法となるものではないから、被告の主張は理由がない。
二 本案について
1 被保全債権について
詐害行為取消権の被保全債権となる債権は、詐害行為以前に発生したものであることを要するところ、財産分与請求権は、協議あるいは審判等によって具体的内容が形成されるものであり、また、慰謝料請求権も終局的には判決によって確定されるものであるが、詐害行為取消権の成否を判断するにあたっては、その発生がかなりの蓋然性をもって予測されれば足りると解すべきである。
本件においては、既に一審判決において、太郎に対し、財産分与として一七八九万円、慰謝料として四〇〇万円の支払を命じられ、後者については仮執行の宣言が付与されていることは明らかに争いがないから、本件売買予約及び本件売買契約が締結された離婚調停の時点においても、既にその存在についてはかなりの蓋然性をもって予測されたものと推認され、被保全債権の存在に欠けるところはないというべきである。
2 本件売買予約及び本件売買契約の詐害性について
被告は、請求原因に対する認否をしないが、請求原因1ないし5の事実については明らかに争わないものと認められるから、自白したものとみなす。
請求原因6(詐害の意思)については、弁論の全趣旨から争っていると認められるが、請求原因1ないし5の事実、《証拠略》を総合すれば、本件売買予約及び本件売買契約の目的は、原告との離婚に伴う財産分与及び慰謝料の支払を免れ、あるいは執行不能とすること以外には考えられず、太郎が主導して右の目的で行ったものであり、被告も右目的を知りながらこれに応じたものと認められる。
仮に被告が一〇〇〇万円程度の資金を調達することができ、あるいは太郎の母親等の援助が期待できるとしても、これらは執行可能な財産ではないから、右の事情をもって太郎が詐害行為取消権の要件としての無資力には当たらないということはできない。
なお、原告の太郎に対する財産分与及び慰謝料の数額は未だ確定していないけれども、本件土地建物は、原告と太郎が婚姻期間中に取得した唯一の財産であり、不可分なものであるから、全部を取り消し、返還を命ずるのが相当である。
三 よって、本訴請求は全部理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤道明)